天のさだめを誰が知る
著者:新夜シキ


 ―――――時は流れ約6年後。
 ここはアリアハン王謁見室。今この部屋にいるのは4人。アリアハン王ラルス14世、大臣、この私マリア、そして今日6歳の誕生日を迎えたアレル―――
 私達が何故王の謁見室にいるのかと言うと…。

「ええい、あやつはまだ帰ってこんのか!」

「お、王様、落ち着いて下さい。ご家族のお二人よりも王様の方が取り乱してどうするんです」

 大臣が王様を必死に宥めている。

 話は数ヶ月前に遡る。
 私の(元)夫オルテガが旅立って早5年と数ヶ月。一向に回復の兆しを見せない世界情勢に苛立ったアリアハン王は、世界中に使者を送りオルテガの足跡(そくせき)を追わせた。それから数ヶ月が経ち、ここ何日かで使者の殆どが帰ってきた。使者達が集めた情報を時間軸ごとに並べ、オルテガの足跡を分析。

1.まずはいざないの洞窟を抜けロマリア大陸へ
2.そのまま北上を続け、ノアニールへ
3.来た道を逆戻り、船を入手する為ポルトガへ
4.ポルトガ王の頼みを聞いてロマリア大陸を東へ
5.何故かバハラタ、ダーマを通り過ぎ、辺境の村ムオルへ
6.再び来た道を逆戻り、ダーマで修業後、バハラタで黒胡椒を入手
7.船を入手後、紆余曲折を経てバラモス城を目指す為アッサラームへ

 …と、以上が現在判っている範囲での大まかなオルテガの足跡。細かい所まで上げれば、もっと色んな所に出没していたようだけど。取り敢えずここまでで5年が経過しているらしい。
 やたらと寄り道、と言うか無駄足が多いのには理由がある。あの人、ああ見えて実は意外と方向音痴なのだ。何か考え事していたり、別の事に気を取られたりしていると、殆ど周りも地図も見ずに歩くのだ。そして気が付いたら、全然知らない所にいる。前に一度アリアハン城の中でさえ、迷子になった事がある程の筋金入りだったりする。要するに、頭の棚が少ないのだ。普段は本当に頼りがいのある人なのに。…まあそのギャップがカワイイ所なのよね。
 …………コホン。で、この先はどうなったのかと言うと、まだ判らない。なぜならアッサラームに派遣した使者だけがまだ帰って来ないからだ。予定では今日帰ってくる筈なのだそうで、私達は朝から待たされている。せっかく今日はアレルの誕生日だと言うのに。当のアレルはと言うと、ウロウロ歩き回っている王様の代わりにちょこんと玉座に座っていた。

「アレル、玉座に座っちゃダメ!そこは王様の椅子なんだから」

「ん。構わぬよ。アレルや、玉座の座り心地はどうじゃ?」

「ふかふか〜。ふわふわ〜。これほしい〜」

「ん〜そうかそうか。おお、そう言えば今日はアレルの誕生日じゃったな。よし。ワシからのプレゼントじゃ。その椅子をお前にやろう」

「わ〜い。ボクおーさま〜」

「「お、王様ーーー!?」」

 私と大臣は同時に叫ぶ。その後、大臣は王様に、私はアレルに説教したのは言うまでも無い。



「しかしアレルは不思議な子じゃ。この子の目を見ていると、心が洗われていくようじゃ。さっきまでの殺伐とした空気がキレイに洗浄された気がするわい」

 大臣の長い説教を聞き流し終わった王様がふとそんな事を言ってきた。
 その事は他の誰でもない、私が一番よく知っていた。私がこの6年間前向きに明るく笑って過ごして来れたのは、間違い無くアレルのお陰なのだから。
 当のアレル、今は大臣の立派なヒゲを引っ張って遊んでいる。

「あの子の目は私やオルテガよりも、お祖父ちゃんに似ていますから。まあ顔の造形自体はオルテガをかなりスマートにした感じですけど」

「ゼイアスか…。ひょっとしたらこの子、世界の救世主になるやもしれんぞ。それこそゼイアスの様にな」

 このままオルテガが帰って来なかったら、やっぱりアレルも旅に出るって言い出すのかしら…。そうなったら私、冷静でいられるかな…。

「おぬしも辛い所じゃのう。勇者の家系に嫁いでしまったばかりに…。まあ、まだアレルの事を考えても仕方が無い。今はオルテガの事が優先じゃな」

 う〜ん、やっぱり使者が帰って来ないとハッキリした事は分からない。そもそも、オルテガは何で船でバラモス城に向かったんだろう。バラモス城は断崖絶壁に囲まれた孤島にあるって言うのは、割と有名な話だ。船では近づく事も、上陸する事もほぼ不可能らしい。あ、もしかしたらあの人、崖をよじ登るつもりだったのかしら…。……………………あの人なら有り得るわね。なんせ、ポルトガの関所の扉を素手でブチ破ったって話だし。

 その時だった。

「失礼します!遅れて申し訳ありません!」

 謁見室に一人の男性が飛び込んできた。…兵士?それにしては格好が…。
 王様が男性に近寄って行った。きっと労いの言葉でも掛けるつもりなのだろう。
 と、思いきや。王様は男性の胸倉をつかんで…

「人の事散々待たせやがって…。何してたんだテメエは…?まさかベリーダンスに没頭してたとか言うんじゃねェだろォな…?」

 こ、怖…。アレルが洗浄した空気が台無し…。

「そ、そーなんですよ実は。もうアイネちゃんが可愛くて可愛くて…」

「職務怠慢で一生ブタ箱にブチ込むぞコラ!!ああん!?」

「嘘ですごめんなさい!情報はキチンと持って来ましたから!許してください〜!」

「王様!国民の前ですぞ!ここはお一つお収めください!」

 ああもう、必死に止めてる大臣が痛々しいったら…。王様ってキレるとこんなキャラだったのね…。アレルもすっかり怯えちゃって、涙目で私にすがり付いてるし。…我が子ながらなかなかあっぱれな萌っぷりね、この子。カメラはどこかしら?……って、そんなもんこの世界にある訳ないでしょ。何言ってるのかしら、私……。
 王様のキレまくった説教は、ほっとけばまだ当分続きそうだ。とてもじゃないけど、アレルには聞かせられないような罵詈雑言が飛び交っている。時間も無い事だし、仕方ないからそろそろ助け舟を出しますか。

「時間が惜しいですわ。情報があるなら早く教えて頂けません?」

「……む、そうじゃったな。すまん」

 私の一言で、王様もようやく落ち着いた。

「取り敢えず結論から教えてくれ。オルテガはどうなった?」

 兵士は襟を正して、咳払いを一つ。

「はい。それでは申し上げます。オルテガ様は――――」



――――あとがき

 オルテガが旅立って6年後のエピソードです。アレルがどのような思いを抱いて10年後旅立つのか。それを見送るマリアはどんな思いを抱くのか。そんな部分を補足出来たらなと思って書いています。お付き合い頂ければ幸いです。



――――管理人からのコメント

 『プロローグ〜6 years after〜』本格始動という感じです。
 オルテガの現在に至るまでの足跡が語られています。

 それにしても、王様の性格がすごいことすごいこと。僕の書く『本編』ではもっとおとなしい性格になるとは思いますが……。
 オルテガのやっていることもすごいですね。どのタイミングでアレルの耳に入れるか、いまからワクワクしながら考えています。

 しかし、オルテガの足跡を笑いを交えて語れるのはここまで。ここから先はただただ、辛い報告となりそうです。
 まあ、原作のゲームをやっている以上、知っていることではあるんですけどね(笑)。

 今回のサブタイトルは『スパイラル〜推理の絆〜』(スクウェア・エニックス刊)の第三十四話からです。意味は『オルテガのあの悲劇を誰が予想できただろうか』みたいな感じですね。
 それでは。



小説置き場に戻る